[今回の取材先]
フォルクスワーゲンオープン・荻村杯2008
[ハマスポWave記者]
2008年6月4日Up
一瞬の輝きを逃さないために
Text:3stripes.
フォルクスワーゲンオープン・荻村杯2008の体験取材に参加させていただいた。
私にとって卓球の試合を観に行くのは、生まれて初めて。卓球自体、最後にラケットを握ったのは高校生のとき。近所の地区センターで同級生と遊びでやったくらいだ。ましてや公式の大会を観に行くことなど、この企画に出会わなければおそらくこれから先もありえないことだったと思う。
横浜文化体育館はとても歴史のある建物で、古くは東京オリンピックでバレーボール等の会場になっていたというから、もうそれだけでも恐れ入ってしまうが、国際大会という独特な雰囲気の中に身を置くとなると、緊張感に縛られるせいか、思わず背筋がピシッと引き締まる。
会場に入った瞬間から、私は会場内にあるもの一つひとつに見入ってしまった。時には選手の間近に立って、時にはスタンド席から全体を眺め、この大会が醸し出す雰囲気一つひとつを、自分の五感に深く染み渡らせてみた。この空間から私が伝えられることは何かを模索した。

目の前で、選手が試合をしている。私はスポーツの試合を会場で観るとき、その会場の雰囲気をまずじっくりと感じる。この試合がどんな展開を見せるか、会場の観衆がどういう雰囲気を出しているのか、私はただただ無言になってじっくりと感じる。時には一緒に観戦に来た人さえも放ったらかしにしてしまうくらい、会場の雰囲気を感じる。
会場が大きいから、あるいは大会のグレードが高いからといったことで、観る際の心構えが変わるわけではない。この会場にいる選手、チームスタッフ、大会関係者、それぞれがどんな思いでこの会場にいて試合に臨むか、私は行く先々でいつもじっくり洞察してみる。選手は、この大会この試合にどれだけの思いをこめているのか、内容や結果が出たその先に何が待っているのか、そしてどう成長し活躍していくのか。試合の結果だけではない、会場へ来ることの醍醐味は、想像力を膨らませられる。
普段の観戦であれば想像するだけでいい。しかし今日は、自分なりに思いをこめ、たくさんの人に伝えるという使命を与えられた。

報道陣、特にカメラマンは少しでもよい場所で、より迫力と臨場感ある画を撮るべく、一つひとつのプレーにも油断がない。まるで彼らは、目の前の獲物を一瞬で仕留めるため、息を潜んでその瞬間を待つトラやライオンであるかのような雰囲気を出している。彼らは目の前で起こる決定的瞬間を捉え、そしてまた次に来るであろう新たな決定的瞬間を捉えるため、ひたすらその作業を繰り返す。
今回はカメラマンとして、コートの仕切りの前でシャッターを切った。さすがは国を代表するレベル、カメラがほとんど追いつかない。新聞や雑誌で見るような、例えばスマッシュを決める瞬間やポイントを取ったときの喜びの表情を撮ってみたいと思ったが、結局それは叶わなかった。
他のカメラマンがどんな写真を撮ったかが気になる。今はデジタルカメラが主流で、撮ったその場で画を確認できる。恥ずかしながら横目で少し覗いてみると、ボールを捉えて力強くスマッシュを決める瞬間が、小さな液晶からでも判るほど鮮明に撮られている。私も自分が撮った画を確認してみたが、ことごとくブレている。カメラの性能は悪くないが、自分の技術がまったく通用しなかった。考えてもみれば、自分以外のカメラマンはあらゆる報道現場で見ることのできる、いわゆるプロ仕様のカメラばかり。張り合おうとすること自体がそもそもおこがましいとはよくわかっているつもりだけど、それでもやっぱり悔しかった。
福原愛選手をはじめとした日本代表の選手を、テレビではよく見るが、本人がすぐ目の前にいる、そして今まさにそこで試合をしているという光景を前に、ただただ緊張感の連続だった。観客席でひとりのお客さんとして観戦するのであれば、すばらしいプレーに拍手をしたり歓声を上げたりするが、今回は曲がりなりにも報道関係者のひとりとしてこの大会に関わり、さらにはここで見聞きしたことや感じたことなどを記事としてまとめ、多くの人たちに伝えなければいけない。その使命感が、試合会場で選手と同じように特別に許された場所へと立ち入ることのできる責任感とともに、重くのしかかる。いわゆる報道陣と呼ばれる人たちは、ありとあらゆる現場でこの思いを背負って仕事をし、社会に伝えていくのだろう。試合に臨む選手が自分のため、チームのため、応援するファンのために全力を尽くしてプレーするように、彼らもまた、いつどこの現場であっても興味本位の気持ちを捨て、プロとして仕事をしようと最高の技術と労力で臨む。そうしたものがあってはじめて、私たちは記事や写真の一つひとつに対し、時に興奮や感動を憶え、時に世の中へ自分の思いを投げかけることができるのだと。
午後7時30分からはじまった女子団体準々決勝の日本対韓国戦は、4時間に迫る長丁場となった。会場はプレーの一つひとつに固唾を呑んで見守る。観客はじっくり腰を据えて観られるが、彼らは決して油断しない。私はこれまで撮ってきた写真を見ては悔しさを噛み締めつつ、それでも一生懸命にシャッターを切った。


残念ながらフルセットの末、日本は負けてしまった。選手からは悔しさがにじみ出る。しかし報道という名でカメラを持ってこの場所にいる以上、シャッターを切らないわけにはいかなかった。激闘の末に敗れたこの悔しさを、そしてこの悔しさをこれからにつなげようという思いを、たくさんの人に伝えたい。いつしか私は、自然にそう思うようになっていた。

●記者の感想●
大会初日の取材、機会をいただいて夜の試合まで携わることができ、とても嬉しかったです。ありがとうございました。女子団体の日韓戦は予想外に4時間近くの試合となり、途中何度もくじけてしまいましたが、最後まで観ることができて本当によかったと思います。
“伝える”ことの難しさや大変さを実感しつつ、いつかどこかでこの思いが誰かに届くことを願うばかりです。
