2007年11月2日〜4日、「第33回東日本フィギュアスケート選手権大会」、「第24回東日本フィギュアスケートジュニア選手権大会」が新横浜プリンスホテルスケートセンターを舞台に行われた。この大会は後に続く全日本選手権大会の選考会でもある。出場者にとっては、海外で活躍する憧れの選手に近づく第一歩でもある。
氷上に美しい火花を散らした戦いが繰り広がられた3日間。ここでは、3人の選手にスポットライトを当てよう。第1滑走者はジュニア男子の松村成選手(武相高校1年生)。父・充さんは、男子シングルス日本代表でオリンピックに2回出場経験がある。母・ゆみ子さん(旧姓・鹿毛)はアイスダンスで全日本選手権1位を獲得。そんな輝かしい記録を持つ両親の下に産まれた少年は、幼い頃からスケートは生活の一部だった。「記憶にはないのですが、初めてスケート靴を履いたのは2歳の時。まだオムツもしていたし、スケート場で昼寝していたこともあったみたいです(笑)」。

既にスケートを始めていた姉2人と共に、通ったリンク。しかし「医者になりたい」という幼い頃からの夢もあった。その思いが方向転換した、あるきっかけがあった。「小学校5年生の時、全日本選手権でノービス男子4位になり、初めて海外の試合も経験しました。その時に選手として進む道が、少しずつ見えてきたのです」。
目標としている高橋大輔選手のビデオを何回も観て、研究は欠かさない。自らの持ち味は、美しいと評判のスケーティングの技術だ。若き日の父の滑りに似ている、と言われるのが嬉しい。母・ゆみ子さんは「一家5人が、こうしてリンクにいることは不思議なめぐり合わせ。みんながスケートが大好きで、本当に良かった」と温かい眼差しを息子に注ぐ。家族に見守られながら、海外に羽ばたく日を目指して今日も氷上に立つ。
第2滑走者は、ジュニアアイスダンスの原楓葉さん(樽町中学校3年生)。名古屋で生まれ育った少女がスケートと出会ったのは小学校3年生の時。母の勧めで通い始めたスケート教室に、始めは遊びの感覚で足を運んだ。「選手を目指そうと思ったのは、アイスダンスを初めて観た時です。シングルのスケートとは違い、観客に技ではなく演技を魅せるところに強く惹かれました」。
母の後押しもあり上京し、本格的にアイスダンスの練習を始めることに。今年から横浜での生活が始まった。学校が終わってから、スケートリンクへ直行。練習が深夜まで及ぶ日も少なくない。「でも、練習も学校も楽しい。難しいと思うのは、アイスダンスはパートナーがあっての競技。お互い技の食い違いや、ゆずれない部分が生じる時は悩みますね」。壁にぶつかる日もあるが、目標ははっきりしている。「ブルガリアのアルベナ・デンコワ選手とマキシム・スタビスキー選手のペア(2006、2007年世界選手権優勝)の演技力がすごい。2人は実生活でも夫婦なのですが、振り付けだけでなく雰囲気で人を惹きつけることができるのです」。スケートが好きという気持ちを観客に感じてもらいたい。自らの思いだけでなく、見てくれる人たちのために。これからも一歩ずつ前に進んでいく。
そして最後の第3滑走者はシニア女子の南雲麻実さん(新横浜プリンスFSC)。新潟で暮らしていた幼い頃、最初に出会ったのはバレエだったが、「母がスケートが好きだったんですね。近所にリンクがあったので、通い始めました」。母にスケートを教えてもらっていたある日のこと。「たまたまスケートの指導者が合宿に来ていて、それが大きな出会いとなりました」。 小学校2年生で母と共に指導者の待つ横浜へ。選手としての生活がスタートした。
体力不足の克服や、精神面の強化に重点を置きながら続く厳しい練習の日々。試合でジャンプを失敗すると、気持ちの切り替えが出来ずに悩む時もあった。そんな時友人で、海外でも活躍中の中野友加里選手(2007年世界選手権5位)に大きな影響を受けた。「友加里ちゃんは根性がある。ジャンプを失敗しても、次に立て直してどんどん跳ぶんです。気持ちの持ち方が違う。学ぶことは多いです」。
競技生活は残り1年と決めている。引退後はアイスショーに出演し、これからもスケートに携わっていく目標がある。「試合の前は緊張するし、こんなに疲れるのはもう嫌だと思う時もあるけど、滑るのはやっぱり楽しい」。いつか子どもたちにスケートを教えてあげたい。スケートを好きになってもらいたい、そんな気持ちを多くの人に伝えていきたい。
3人の選手たちの東日本選手権の結果をお伝えしよう。松村選手はジュニア男子総合10位。原選手はジュニアアイスダンス総合2位。南雲選手はシニア女子総合6位。この結果、11月と12月に開催される全日本選手権出場の切符を手に入れた。
大会を支える実行委員の1人、東京都スケート連盟の小林宏さんは「出場者全員がチャンピオンになれるわけではない。頑張って、その中で得た結果が大事なのではないでしょうか」とエールを送る。小林さん自身も、かつてはアイスダンスの全日本選手権2位の選手だった。「今、技術は40年前より遥かに向上していますが、努力する気持ちは昔も今も変わらないと思います」。
小林さんは連盟の仕事で大切なことに、「選手が練習できる環境を整えること」を挙げている。
「スケート界の裾野が広がることはとても素晴らしいことです」。
小林さんの活躍がスケート界の発展につながっていく。
フィギュアスケートは夢のあるスポーツだ。氷上を舞う美しさに、誰もが酔いしれる。
きっとこれからのオリンピックも、たくさんの日本人選手の胸にメダルが光り輝く姿を見ることは、間違いない。

●体験取材の感想●
フィギュアスケートを実際にスケート場で観戦するのは初体験。いざ記者席に向かうと「寒い!」が第一印象。そう、目の前は氷なのだから当たり前なのですが、選手はコスチューム1枚ですごい!と改めて思いました。そして競技が始まると、その美しさにすっかり魅了されてしまいました。氷上を滑る音、選手を包む風。目には見えないものですが、テレビでは実感できません。
インタビューさせて頂いた3人は、とっても素敵でした。松村成くん、一緒に同席したお母様の肩のほこりを払ってあげたり、さりげない優しさが微笑ましかった。原楓葉さん、中学生とは思えない大人っぽい美しさに見とれてしまいました。お客様の声援が本当に嬉しそうな、思いやりあふれた女の子でした。そして南雲麻実さん、苦手というジャンプを見事に決めていましたが、競技中も常に採点のことが頭をよぎるのだとか。愛らしい笑顔で、将来は子どもたちに大人気のスケート教室の先生になるでしょう。
私にとって、フィギュアスケートがもっと身近に感じることができた、大切な一日となりました。
